002.青葉市子 / うたびこ (2012)

うたびこ


薄い薄いページを一枚ずつ丁寧にめくり、読み聞かせるように歌う。ところがその相手はこちら側、聴き手ではなく、彼女が携えたギターなのかもしれない…そう思いついたとき、どきっとしてしまいました。少女の鍵つきの日記、あるいは密やかなお人形遊びをほんの偶然から覗いてしまったような、いけないことの感覚を覚えたのです。呼吸の機微、声の箱鳴り、ナイロン弦の倍音まで聴き取れる音場からはその距離の近さや空間の容積が容易に想像できますし、ギターは饒舌で単なる伴奏というよりは独立した、大切なイマジナリーフレンドのようです。ごくシンプルでぽっかり虚なのだけれども濃密といいますか、ひどく整っていて立ち入る隙もない。そのくせ目が合うと大丈夫だよと笑ってくれたりもして、魔性です。


総合的な見せ方がとてもうまい人なのだろうなあと思います。ガットギターと歌だけという構成から毎回無地で統一するアルバムアート、市松人形みたいなルックスまで含めどこか孤高な、拒絶ともとれるイメージを突き立てながら、あたたかいメロディーに詩、更には少女趣味ともいえるブックレットのイラストに親しみを覚える。どこまでが作為で演出なのかは知る由もありませんけれども、曲まですばらしいのだからにくらしい、いやめっぽう素敵であります。


3枚目のアルバム「うたびこ」は従来のフォーマットと気品を守りつつ、もっとも日だまりを感じる作品でした。出だしの一曲こそ五拍子を基調に緊迫感がありますが、続く曲はどれもあたたかく、慈しみにすら満ちている気がします。地蔵並みです。少女は自分だけの小部屋から外へ出たのか?実際、音楽的コミュニティも広がっているらしく、次の一手がとてもとても楽しみな音楽家です。欲を言えば大阪にも足をのばして頂きたいな。


○ひかりのふるさと
伸びてゆく'「ふーーー」るさとへ…'を追って、つい上を見上げてしまいます。