012.Michael Franks / The Art of Tea (1975)

Art of Tea


このアルバムを聴くと、俳句の「水ぬるむ」という春の季語を思い出します。張りつめていた緊張がふっと融けるときの心地よさに満ちている。最大限良い意味でのルーズさとでもいえましょうか。ガチ作り込み系ポップスの究極はSteely Danの「Aja」かXTCの「Skylarking」ではないかと思っていますが、ある意味でその極端に位置するような音楽かもしれません。もちろん少しでも細部に耳を傾ければ、その雪解けの泉が湧き出るようなフレーズの奔流におどろくほどの緻密な構成を見て取ることも容易ではありますけれど、テクニックとかコード進行とかどうでもよくなるほどまずは気持ちいいわけです。ほんとうに、ただそこに初めから浮かんでいたメロディのように聴こえるのです。


クルセイダーズ周辺のテクニシャンが大活躍ということでバックの演奏についてよく語られていますが、フランクスさん本人の歌声も非常に重要な要素だと思います。すこし鼻にかかった甘いへにゃ声で、カエターノ・ヴェローゾアート・リンゼイにも似ています。つまりブラジルの青い空気を感じるということでして、仕事とか休んで縁側に座って昼寝しながら聴きたいなあという気にさせてくれる声です。


これが2ndで、これ以降はもっとカッチリした印象の作品も増えてきます(それはそれで良いものをたくさん出していらっしゃいます)。彼のキャリアの中でもポップス史の中でも貴重ですてきな、パステルブルーの一枚。


※ところで、ユーミンの「さみしさのゆくえ」のテーマ(リフ?)はこのアルバムのM2「Eggplant」のそれとよく似ています。時代的にはほぼ同時期の曲ですが、若干ユーミンのほうが後出し?共通したにおいをかぎとったのでしょうか。*1


○I Don't Know Why I'm So Happy I'm Sad
せつなさだだもれです。yes i am, yes i am...のリフレインがたまりません。おっさんなのになんなんだろうこのかわいさは。そのちょびひげを俺にくれ。

*1:とか思ってたら、なんとフランクスさんのほうも最近ユーミンカバーアルバムに参加してらっしゃった。相思相愛ということですかね