013.XTC / Oranges & Lemons (1989)


Oranges & Lemons


ひとことで呼ぶなら「花さかじいさん」。目につく方々に春をまき散らしてねり歩くような気前の良さに溢れた大ポップアルバム。


前作「Skylarking」制作過程でのフラストレーションから解放されたかのように、とにかく多幸感に満ちています。メロディ、リズム、ハーモニーとあらゆる要素が練りに練られつつ華々しいアウトプット。歌詞なんかは相変わらずリア充爆発しろみたいな感じなのですが、まあほんとにレインボーな楽しさです。XTCは商業面で世界的に大成功したバンドとはいえないとしても、この作品が出たとき世界はいったんビートルズを忘れてもよかったのではないだろうか。パートリッジ&ムールディングがレノン&マッカートニーに劣っているところなんて、ルックスの華くらいじゃないだろうか…とさえ思ってしまいます。


冒頭3曲が必殺過ぎてリピート地獄にはまりやすい(M3「King for A Day」のベースラインの中毒性はひどすぎる)のでどうしても全体の構成が霞みがちではあるのですけれど、実は後半も面白いのです。M8「Scarecrow People」からM13「Pink Thing」までの流れが好きで、よく通しで聴きます。どの曲もリズムがひとひねりされていて、ブリティッシュビートからアフリカンリズムまで挑戦してきた彼らの集大成という感じで退屈しません。この当時既に彼らはバンドではなくユニット化。スタジオミュージシャンがいろいろ参加していますが、雲を突き破るようなスカーンとしたドラムを叩くのはやがてキング・クリムゾンに加入するパット・マステロットさん。納得の対応力。


○Pink Thing
曲展開がこんな奇天烈なのに、一瞬たりとも適当なメロディがないのがすごいと思います。変なコーラスや、ギターのギャルリンとした独特の質感が初期の頃を思い出させたりもする曲。