006.Lô Borges / Nuvem Cigana (1981)


Nuvem Cigana


ブラジル音楽においては「サウダーヂ」という感情の表現がキーになるらしい。和訳すると「郷愁」に近いところなのか、あこがれを含んだなつかしさというか、コレクトな日本語があるわけではなさそうなのですがどうやらそんな感じぽいです。


さてポルトガル語もわからないしブラジルに行ったこともない、そんなただの日本人ではありますが、ロー・ボルジェスというこの不思議な音楽家を聴いていると生まれてくるこの感情こそがサウダーヂではないかという気がします。それは一番うつくしい自分の記憶を思い出そうとするような感じといいますか。思い出は過ぎた瞬間から時とともに多少なりとも脚色されていくものですけれど、それをどこかで冷静にわかっている自分もいて、手が届かないもどかしさと哀しさ、そしてだからこそのうつくしさ。説明がまともにしきれないのですが、人の中にある時間の歯車をちょっと押すような、そんな力を持っている音楽だと思います。


独特の浮遊感をもつコード感のギターを中心にしたフュージョン風ポップスで、リバービーな感じとかシンセの音色などはまさに80年代といった趣き。しかし無理してお化粧をしているという印象がまったくありません。曲自体が全曲良すぎるということに尽きるのでしょうけれども、同時にこのロー・ボルジェスという人そのものがキラキラしているように思えます。時の枠組みにすら拘束されず、桃色の觔斗雲にでも乗って歌っているような、どこか浮世離れした永遠の歌声です。そりゃあ、音も必然的にキラキラするよ!みたいな。どこにも力入ってなさそう。実際にお会いしたらちょっと透けてるんじゃないだろうか。



○A Força do Vento
和訳すると「風の力」になるでしょうか。星雲を集めては散らし、さらさら流れてゆきます。