005.荒井由実 / 14番目の月 (1976)


14番目の月


もう曲ならびが壮観すぎる。「14番目の月」「中央フリーウェイ」「天気雨」「避暑地の出来事」と、70年代日本の夏がまるごと詰まっているかのよう。海へドライブするすべての車で聴かれてたのでは…とすら考えずにはいられません。1986年生まれの身としてはこの時代というのは伝説の中にしかないわけなのですが、このアルバムのおかげでいつまでも憧れの対象としてある気がします。


ユーミン暦荒井時代のアルバム4枚はどれも本当に大好きなのですけれども、あえて1枚選ぶとしたらこの4枚目が一歩だけ抜き出ているかなあと思います。この後から「松任谷」になり、これまでの夢見る少女を置いて、名実ともに現実の社会生活の中で輝こうとする一女性としてのキャリアが始まります。ユートピアへの希望が極限まで高まった最後のたまゆらが、時代を超えた誰をも引きつけてやまない無邪気な幻想性につながっています。


バックの演奏も洗練をきわめ、まさに歌伴の理想形。すべての楽器が毎秒幸福に歌い、この世界を描くのに他のアレンジは考えられないと思わせられます。中央フリーウェイとか奇跡。一瞬で夜景だもの。
特にリズム隊は海外のフュージョンプレイヤーを起用していることもあってか、16分音符を多彩な間でハネさせ、まさに波打ち際の水しぶきのようにじゃれています。国内外を問わず、ポップスでこんな一体感はちょっと他で聴いたことがありません。


○天気雨
ベースラインを歌うととてもたのしい。